Creepy Nuts(R-指定 & DJ松永)後編「堂々と自虐する」のがヒップホップ
インタビュー前編では主にCreepy Nuts結成以前のキャリアについて教えてもらったが、後編はR-指定のリリック作り、バトル王者の誇りと重圧、創作のインスピレーション、MCバトル人気の過熱、といったテーマに分け入っていく。有能さすらコンプレックスになるRの自己省察と感情の相剋と、松永の愛すべき自然児ぶり。言葉の端々から、交わす視線から、互いへの信頼と敬意が伝わる。実にいいコンビだ。ふたりの会話のグルーヴはWEBラジオ『Creepy Nutsの “悩む” 相談室』でも味わえる。彼ら言うところの典型的な「不毛な議論」だが、だからこそ面白いので聴いてみていただきたい。
4月17日、たりない巡業2016 春場所最終公演@渋谷TSUTAYA O-nest(撮影:有高唯之)
●「ぶっちぎりで理詰め」のリリック
──RさんのUMB全国大会3連覇という実績は圧倒的ですが、自信はつきましたか?
R 難しいですね……。うれしい反面、面倒くさいことをしてしまったなっていうか、ちょっと考えものやなっていうこともあります。気軽にバトルに出てサクッと負けるみたいなこともできへんくなるし。自分の問題なんですけどね。あと、勝ちすぎると勝ちにくくなるんですよ。みんな味方じゃなくなるんで。『フリースタイルダンジョン』はまたちょっと違う空間ですけど、いま俺が平場でUMBとか出たら、お客さんはみんな俺が負けるとこを見たいので、全員が敵に回るみたいな。3連覇したときの3年目とか、めちゃめちゃキツかったっす。
──アルバムを作るときにもそういうプレッシャーってありましたか? 「チャンピオンのR-指定のグループ、お手並み拝見」っていう感じで聴く人もいるでしょうし。
R 自分のソロも含めて、チャンピオンのイメージに合わせにいかないものを作ったんで、聴いて「こんなのチャンピオンじゃない」って思うんやったらそれでいいよ、これが俺の言いたいことやから、って感じなんですけど、ライヴでは先入観を持って来るやつをきっちりびっくりさせたいなっていうのはあります。歌詞の内容はネガティヴですけど、生で実際にふたりで作り上げるショーであったりとか、自分の迫力とか伝わる空気みたいなんは「スゲ!」ってなってほしいすね。曲がライヴで化けるみたいのんを見てほしいです。
松永 ライヴに関しては、どんな人が来てても盛り上げないとなっていうのはありますね。
──ヒップホップの現場だけじゃなく、バンドやアイドルのイベントなど、いろんなところに出てますけど、それぞれどう違いますか?
R いちばんやりやすいんはアイドルのお客さんですね。ヒップホップはしょうがないんですけど、みんなね、やっぱ、ライヴを見るとき熱狂するんじゃなく(腕を組んで)「どんなもんやねん」って感じなんですよ。自分らもそうやし。「めっちゃかっこいい!」って感動してても、このままなんですよ。
松永 クラブとライヴハウスの違いもありますよね。クラブはやっぱDJイベントが主だし、クラブに遊びに行くってモチベーションで来てる人が多い。ライヴハウスはみんなライヴを見て盛り上がるために来てるから、そもそも求めてるものが違うんですよ。
R ヒップホップイベントでお題のフリースタイルとかしても、「いやいや、おまえができるの知ってるから」みたいな空気なんすよね。
松永 特にバトルイベントでは盛り上がらないですね。バトル見に来てる人はキレッキレのやつとかアツいやつを求めてて、ヒリヒリするフリースタイルを聴きたいから、うまいことトンチ利かせてもあんまりわかんない(笑)。
R ヒップホップはヒップホップで俺自身は燃えるんですよ。「この現場をがっつりロックしたい」っていうアツいスイッチが入るんですけど、バンドの対バンのときとかは、それよりか「見たことないもん見せたる」みたいな気持ちになります。いちばん燃えるんは、最近はあんまりなくなりましたけど、バンドのイベントとか出るとお客さんの大半、9割くらいが「ヒップホップ(笑)」なお客さんなんで、その半笑い入ってるのをひっくり返したい、みたいな。そういうときは自分の経歴はフリとして逆にいいなと思うんです。ラッパーとしての王者の称号をガッツリ持って行って、迎合するんじゃなく、しっかりターンテーブルとマイクっていうヒップホップの手法で楽しませて「ヒップホップなめんなよ」ってやりたい。
松永 そういうお客さんをひっくり返すのは、やっぱいちばん気持ちいいですね。
「爆ぜろ!! feat. MOP of HEAD」ライヴ。ヴォーカルがバンドの音圧に負けてない
──『フリースタイルダンジョン』でたまに「Recいくつのベストバウト」みたいな特集があるじゃないですか。あのときモンスターのみなさんが選んだベストバウトについてコメントするなかで、Rさんの解説がズバ抜けて具体的で面白いんですよね。
松永 あそこまでMCバトルを具体的に解説したのってRが初めてなんですよ。
佐藤マネージャー 『高校生ラップ選手権』で審査員をやったときに初めてちゃんと説明したんです。
R それまではノリがどうとかヴァイブスがこうとか、「うまい」とかひとことだけが多かったんですけど、審査員のオファーが来たときに、なんか仕事取りにいこうみたいな気が働いて(笑)、めっちゃめちゃ集中して試合を見て、振られたときにネタになるくらい長い文章できっちり説明するっていうのをやってみたんです。
松永 そしたら客席から拍手が起こったんですよ(笑)。次からは「どうでしたか、R-指定さん」って振られるだけで拍手が起こるみたいな、不思議な状況になってましたね。
──自分がやることに関してもめっちゃ論理的に考えてやってるってことですよね。
R そうっすね、けっこう。
松永 いろんなラッパーと曲作ってきましたけど、Rはぶっちぎりで理詰めですよ。あの解説は僕らのふだんの雑談に近いんですよ。ラッパーの誰々が言いそうなことを歌う、みたいな遊びをよくしてて。
──その遊びから生まれたのが「みんなちがって、みんないい。」ですね。素晴らしかったです。マキタスポーツさんの「作詞作曲ものまね」を思い出しました。実際、彼もTwitterやFacebookで絶賛していましたけど。
松永 「○○っぽいの」ってやって遊んでて、その後にその人の音源聴いたらまったく同じラインを歌ってたことがありますよ(笑)。
──いわゆる「本人以上に本人」ってやつですね。
R そういうの、ラッパーはみんな意外とやってるんですよ。誰かの話題になると、ひと節その人のマネするとか。それを曲にしてみただけで。
松永 まぁでも特にやってると思うけどね、Rは。
R いや、俺らまわりが異常にやるんすよ。
松永 「○○がブギー・バックを歌ったら」シリーズとか超あるんですよ。
「みんなちがって、みんないい。」MV
──(笑)聴いてみたいですね。やっぱり大阪の土地柄と関係あるんですかね?
R あると思いますね。
松永 大阪のやつらはラップで超遊んでます。
R それこそ韻踏合組合のスタイルからして、ラップで遊ぶっていうか。子音踏みっていって、例えば「去る」と「猿」みたいな同音異義語は韻じゃなくダジャレやからやめようぜ、みたいになってたんですけど、韻踏がそれもアリにしたんですよね。「面白いからええやん」みたいな。俺らもラップで笑ったり楽しんだりできることが「かっこいい」よりも優先みたいな感覚がありますね。
松永 俺も大阪のやつらと会って、ラップってこんなに楽しいんだって思ったもんな。遊んでゲラゲラ笑ってて。
R けっこうアメリカの人らもそうやと思うんですけどね。顔をしかめてクールなスタイルだけがヒップホップってわけじゃなくて。どう考えても韻を踏むって行為は面白いし、遊びなんで。
松永 オールドスクールのラップとかちょっと間抜けですもんね。
R でもめっちゃおもろいじゃないすか。
──向こうはお笑いとラップの距離も近いしね。
R 俺もそれよく思うんですよ。で、もしかしたらなんすけど、あっちでラッパー発のワードが流行ったりするじゃないですか。あれって日本でいうたら歌ネタとかリズムネタの芸人さんと近いのかなって。みんながマネしたくなるようなフレーズとかメロディとかトピックっていう。
松永 特に最近のトラップものとかそうじゃない? "CoCo"(O.T. Genasis)とか。
二人 ♪I'm in love with the CoCo(笑)。
2014年に全米チャート20位のヒットとなったO.T. Genasis "CoCo" MV。
TVヴァージョンにはレジェンドIce-Tと妻のNicole "Coco" Austinも登場する
R 絶対あれリズムネタやで。「コ○イン大好き」にメロディつけるなんて、笑かそうとしてるとしか思えない。
松永 本人たちもゲラゲラ笑いながら作ってるよね。
R それをいち早く察して取り入れたKOHHはやっぱすごい。「JUNJI TAKADA」とか、最初「はぁ?」って思ったけど、よく考えたらあっちの人らがやってることはこういうことやって。
松永 かつ、KOHHはちゃんとかっこいいからギャグに終わってないんですよね。かっこよくてスタイリッシュで、スター性があるから。みんなマネしちゃうじゃんKOHH。俺らもずーっとやってたし。
KOHH「JUNJI TAKADA」MV
──マキタさんがよく言ってたんですが、作詞作曲ものまねは自分が曲を作るためのひとつの方法だったって。
R 俺もそうっすね。自分がうまくなるためにカラオケでZEEBRAさんのフロウをマネしたり、TwiGyさんやKREVAさんのマネをしたり。あ、こういうところでここにアクセントつけるのか、とか、ここに伸ばし棒入れるのか、とか、沖縄の「わ」は言わないで「おきなぁ」って言うんや、とか、自分でこうやればこう聞こえるっていうのを構造分解してました。
──マキタさんと共演してほしいですね。Rさんは絶対に話が合うはず。
R いやぁ、緊張しますね。
●リラックスタイムは地元の友達と
──フリースタイルと曲作りのときでは言葉の出し方って違いますか?
R 出まかせじゃないけど、行き当たりばったりで頭の中で文章を構成したりオチをひねり出したりするのがフリースタイルなんで、理詰めが土台になってるからこそ、その場ではあんまり考えてないっすね。曲のときはしっかり意味と流れを構成して落とす、みたいなことを考えます。
松永 大会ごとにテンションが全然違うよね。UMBのときは超バチバチだったけど、それ以外ではけっこうテンション低かったりするし。
R (賞金の)金額ちゃう?
松永 それは絶対あるよな。かかってるものが。
R あんときはほんま、カイジみたいな生活というか、プラプラしながらUMBの賞金を頼りに生きていたので、年末の一発に賭けてました。
松永 そう考えるとさ、UMB出なくなってCreepy Nutsで回るようになってよかったよな。これで金が入ってくるようになってなかったら……って思うとゾッとするね。
──アウトプットにはインプットが必要ですけど、Rさんの場合は?
R 映画とか、あと友達とのくだらん会話とか、コンビニの立ち読み、ネットサーフィン、テレビをダラダラ見る……高尚な趣味は全然ないですね。俺にとっていちばん重要な時間は「ヒマ」なんで。なんにもないときとか、友達とくだらん会話をしてるときがいちばん吸収できてると思います。
──BOSEさん(スチャダラパー)も同じこと言ってました。ヒマが大事だって。
R いや、ほんまなんですよ。いちばん面白いことが浮かぶんはそういうときで、そこで溜め込んだものがフリースタイルなんかで出さざるを得ない状況になったときに出てくるというか。その時間がなかったら俺、たぶん何も出てこないと思います。くだらんノリとかで過ごしてた分、いざスタート!ってなったときに「やばい、いま何も考えてない! けど脳みその抽斗にはいっぱい何か詰まってる……出てきた!」みたいなんがあるんで。それがいちばん大事やし、いちばん楽しいっすね。生産性のないことが。
松永 俺も大好き。あてもなく地元の田舎道を友達と夜中じゅうドライブするのがいちばん楽しい。
R そうすよね。しかもこれ何がすごいって、俺らふたりとも免許持ってないんです(笑)。
松永 友達に運転させるんすよ。
R 俺は役割的に絶対助手席なんですよ。寝かせへんためにずっとしゃべるみたいな。で、むかし流行った懐かしい曲かけて大合唱したり、通学路を走って、あんときあいつあれやったな、みたいな話をしてゲラゲラ笑ったり、ずーっと地元をいろんなルートで回り続けるんすよ。
松永 あれほんと充電だよな。いますぐしたい。やばい、俺いま禁断症状が……めっちゃ地元帰りたい! 帰っちゃおうかな、この足で(笑)。
R あんな楽しいことないよね。みんなしてると思うんやけどな。田舎特有?
松永 田舎特有だし、だんだん恥ずかしくなってくるんじゃないかな。
R いや、俺は大人ぶって大人な遊びをするほうが恥ずかしい。
松永 俺マジで、いまのうちに宣言しときたいんだけど、ジジイになってもこれやめないから。70ぐらいになっても友達に運転させてドライブするから。
R お金も使わへんし。ガソリン代をみんなで出し合うぐらいでしょ。
松永 新潟で友達と会うと、4人くらいでカラオケ入って、誰も一曲も歌わず、ジョッキのコーラを頼んで2時間ぐらいずっとしゃべって。
R で、友達の車に乗って。
松永 そこらへんの道に停めて、朝まで延々と不毛な議論をして。
R ほんまに不毛な議論ですよね。
松永 尊いよなー、あれ。ほんと尊い。
「合法的トビ方ノススメ」MV
──インプットというか、リラックスして頭がよく回る状態みたいなことなんですかね。
R あー、そうかもしんないすね。リラックスしてるときは頭が回るかもしれないです。たまにきっちりしたラジオに呼ばれてしゃべったりするんですけど、全然おもんないっすから。最低やと思いますよ、自分で後から聞いて。「挨拶と曲紹介しかしてないやんけ。もっと言えや、ヘンなこと」って思ってしまうんですけど。そのぶん松永さんがノンブレーキなんで(笑)。うらやましいです。
松永 いや、俺は逆にその録音を聴いて、恥ずかしい……聴きたくない!って。「Rがちゃんと仕事してるのに、俺、茶化しに来てるだけじゃん」って。紛れ込んだ素人みたいになってる(笑)。
R それがいいんですよ。それはあってほしい。
松永 でも思うのは、俺がRになる必要はまったくないなと。
R ないし、俺らの肝ってこのダメさ加減じゃないですか。これをなるべくこのまんまみんなに伝えたいというか、しっかりこういうやつらもおるよって。多いと思うねん、たりないやつら。
松永 でも俺、Rがちゃんと挨拶してちゃんと説明すんの、めっちゃ尊敬してるからね。俺全然できないもん。最近こいつ人当たりも超いいんすよ。
R 正直、俺はちょっと恥ずかしい、しっかりしてる自分が。松永さんの破天荒な姿勢を見て、ヒップホップやなって思うから。俺は何をちゃんと挨拶してんねん、「よろしくお願いします」じゃねえよ、みたいな。放送禁止用語のひとつでも……ラッパー俺やのに、って(笑)。俺はたぶん松永さんがしっかりした人やったらむちゃくちゃするスイッチ入ると思うんですけど、ふたりともそれやったら収拾つかへん。オチないんで。
──コンビってそれぞれがひとりのときとは違う色分けができてくるもんですよね。
R ほんまは俺がそれしたいのになー。むちゃくちゃ言うキャラクター。
松永 わたしにはあなたの立ち位置は無理なので、勘弁してください。
──松永さんはいいんですよ、そのままで。
松永 ほんとっすか? このままグループ内格差がどんどん開いていったら、俺は何でアピールすればいいんだろうって。
R 格差ではないですよ。
●ヒップホップよりもMCバトルが巨大化
──よく「バトルMCは音源が……」って言われますよね。
R 言われますよね! いちばん俺が食らってきたんちゃうかな。
松永 的がでかいぶん言われやすいんじゃない?
R おそらく俺、バトルMCの中で随一なぐらいいい作品作る自信はあるんですけど。
松永 「バトルMCは音源がダサい」って、みんな言いたくなるだけなんじゃない?
──Rさんが言われるのは嫉妬もあるのかも。
松永 バトルだけ好きな人はそもそも音源に興味がないとか。
R みんなそこそこかっこいいっすけどね。
松永 そもそもバトルMCで音源出してるやつそんなに多くないし。
R バトルMCで音源ダサいやつはバトルも強くないっすよ。ラップがうまくないってことなんで。
佐藤 知名度が先行するからじゃない? チャンピオンっていう称号でハードルが上がった状態で聴くから「こんなもんか」って思われちゃうとか。あと、わずか数小節で120%を見せるのと1曲の時間で見せるのとでは、どうしても一瞬のきらめきのほうが勝っちゃうのかな、とも思います。
──高校野球の1試合とプロ野球の1試合の違いみたいな。
佐藤 そうそう。プロ野球は百何十試合のうちの1試合だから今日見なくてもいいやってなるけど、甲子園の1試合って、その試合で肩を壊すかもしれないのに投げるのがかっこいいみたいな。その差だと思うんですよね。
松永 だって俺、Rの音源がバトルと比べてダサいと思ったこと1ミリもないし、なんならいちばん当てはまらないくらいに思ってたから。
R でもいちばん言われる。
松永 集団心理みたいなもんかな。
佐藤 あと理想じゃない?
松永 それもあるかも。
R そんなん知らんて(苦笑)。
松永 Rにはアイドル的人気が、イヤだろうけどどうしてもあって、その人なりの理想のR像があるのかなんなのか、「こういう格好してほしい」とか「ヒゲ剃れ」とか「髪切れ」とか、死ぬほど言われてるんですよ。
R 俺、言われたら絶対やらないっすよ。
──なるほど、それは面倒そう。なんかちょっとスターみたいになっちゃいましたね。
R そういうのがイヤでやってるんで、曲を聴かせて徐々にわかってもらうしかないっすね。ぜひライヴに来てほしいです。
松永 レッテルを無理やり貼ろうとしても貼れないぐらいにはなったかと思うけどね。
──大きいメディアにもどんどん出るようになって喜ばしい反面、フリースタイルのMCバトルという形式がひとり歩きしちゃってるところもあるんじゃないですか?
松永 普通の音楽とまったく別ものになっちゃってますよね。
R 別やし、いま若い子でも、これはどうこう言うことじゃないんですけども、バトルに出るのが最終目標みたいな子が多くなってるんですよね。あまりにもメディアに取り上げられて、かっこいい、面白いものに映ってしまってるから、しょうがないところもあるんですけど。ただ、自分がラップを始めたのは曲を作りたいからで、ラッパーが持ってる数ある枝の一本としてMCバトルがあって、それに出てただけなんですよ。いまはMCバトル自体が幹みたいに見られてるんで。
松永 ツイッターの若い子のプロフィールとか見てると「ラッパーじゃありません。フリースタイラーです」とか「俺は絶対UMBでR-指定を倒して日本一になる」とか書いてあるんですよ。
R でも、文化が広まったり大きくなったりするのは、そういう人らがいるからなんじゃないかとも思うんですよね。俺らの世代も言われてたんすよ。「あいつら洋楽のオールドスクール掘らへんくせに、日本語ラップから入って日本語でラップしたいとか言いやがって」って。ヒップホップじゃないよ、みたいなことを死ぬほど言われてきました。その子らも言われるし、また新しい子らが出てきたら、たぶんそいつらも言うんですよ(笑)。
松永 でも今回ばかりはすごい気がするけどね。
──なにしろ規模が大きいですからね。
松永 ヒップホップよりもフリースタイルがでかくなっちゃってるっていうのは、もしかしたらまずいことなのかもしれないですね。
R 俺がやり始めたころなんてまぁ局所的なもんでしたから。めっちゃアンダーグラウンドでしたよ。
松永 好き者だけが見るものだと思ってたもん。いなたい趣味だったよな。
R いなたいし、変人しかおらんかった(笑)。
──まぁ、僕自身も含めて外野は勝手なことを言いますけど、あんまり気にしないで自分たちのやりたいことをやっていってほしいです。アルバムはすごくよかったので。
R 松永さんはどうかわからないですけど、俺のなかでは、なんでこれをそのままアートというか曲にできるのかといえば、ほんまに自分はダメやし、至らないところがたくさんあるし、ものすごい劣ってると思うんです。でも、それでいいと思ってるんですよ、たぶん。頑張って周囲に合わせるんじゃなくて、その俺をわかってくれ、それが俺やねん、みたいな気持ちがすごいデカいんです。だから自虐しつつ堂々と言ってるんですよね。そういうことって普通の社会に出たら言いにくいし、ダメなまんまでいいわけがないし、みんな形を整えられていくんですけど、幸い音楽ではそのまんま表現できる。大人な表現をする必要がないのがカウンターカルチャーなんで、じゃあそのまま言うたる、っていうのがヒップホップがヒップホップたるゆえんなんじゃないか、と俺は思ってます。
松永 俺は完全に言いたいことをRに言ってもらってる感じっすね。「たりないふたり」って曲に関しては、言ってほしいことをガッツリ伝えて、出来上がったときは俺が気持ちよかったんですよ(笑)。
(2016年3月3日)
[PROFILE]
くりーぴー・なっつ……MCバトル日本一のラッパーR-指定とターンテーブリスト/トラックメイカーDJ 松永が2012年に結成した1MC1DJのユニット。デビュー前から「FUJI ROCK FESTIVAL ’14」「YATSUI FESTIVAL 2015」に出演するなど注目を集め、ライヴの現場で評価を上げていく。2015年8月に初シングル「刹那」を発表。2016年1月にリリースした1stミニアルバム『たりないふたり』がiTunesのヒップホップチャート1位などインディーズとしては破格のヒットを記録し、3〜4月に敢行した全国6都市のツアー「たりない巡業2016 春場所」も大盛況。スキルフルかつエモーショナルな楽曲、コンビネーション抜群のアツいパフォーマンス、誰もが舌を巻くお題拝借の即興ラップ「聖徳太子フリースタイル」などで確かな実力とエンタテイナーシップを見せつけている。
あーる-してい……大阪府堺市出身。中1で日本語ラップと出会い、中2からリリックを書き始める。高2のとき梅田サイファーに参加し、バトルやライヴ活動を開始。「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)大阪大会で5連覇を成し遂げ、2012〜2014年には全国大会3連覇を達成。2014年には1stアルバム『セカンドオピニオン』をリリース。『フリースタイルダンジョン』では挑戦者を迎え撃つ「モンスター」のひとりとして圧倒的な強さを見せつけているが、輝かしい経歴とは不似合いな(?)劣等感や負の感情をエネルギー源とし、自他への攻撃に笑いに哀愁にと多彩な表現を展開する。
でぃーじぇい・まつなが……新潟県長岡市出身、東京都在住。DJ/トラックメーカー/ターンテーブリスト。TOC (Hilcrhyme) の専属DJを務め、サイプレス上野とロベルト吉野、KEN THE 390、鬼、晋平太など多くのアーティストにトラックを提供している。ソロアルバム『DA FOOLISH』(2012年)と『サーカス・メロディー』(2014年)、デジタルシングル「Daydream feat. KOPERU, R-指定, MUMA, LB (LBとOTOWA), TARO SOUL (SUPER SONICS), TOC」(2013年)、ミックスCD『HIPHOP-DL Presents オフィシャル日本語ラップ MIX CD This Time Vol. 2』(2013年)と『In The Mood』(2015年)をリリース。華麗なターンテーブルさばきはCreepy Nutsのライヴの見もののひとつ。
[RELEASE]
Creepy Nuts(R-指定 & DJ松永) / たりないふたり
2016/01/20発売 / Trigger Records
収録曲:[1] 合法的トビ方のススメ [2] みんなちがって、みんないい。[3] 爆ぜろ!! feat. MOP of HEAD [4] 中学12年生 [5] たりないふたり
名刺代わりの初アルバムにふさわしく、全曲リリックはR-指定、トラックはDJ松永が手がけて([3] のみMOP of HEADと共作)強力無比なコンビネーションを証明したミニアルバム。さまざまなラッパーのスタイルをフロウやライミングから内容まで解体し組み立て直した超一級のパロディ [2] を筆頭に、スキルの卓越ぶりは言うまでもないが、それ以上に刺さるのは『セカンドオピニオン』でも衝撃的だった自らの心の闇を徹底的に深掘りしたリリック、そして歌声のエモーショナルな響きである。やっぱり言いたいことがあるヤツは強い。よく言われるR-指定一流のワードセンスも、何がなんでも伝えたいという情熱から生まれるものだと思う。DJ松永による「いなたい」、なつかしさを抱かせるメロディとの相性は唯一無二。揺るぎない敬意と信頼をもとに、お互いの「たりない」部分を補い合うふたりの「ソウルブラザー」ぶりはロマンチックでさえある。
[UPCOMING EVENTS]
日時:5月15日(日)開場09:30 / 開演11:30 / 終演20:00(予定)
会場:東京都・お台場野外特設会場(ゆりかもめ青海駅すぐ)
共演:RHYMESTER/OZROSAURUS/KOHH/ゴスペラーズ/サイプレス上野とロベルト吉野/さかいゆう/SUPER SONICS/SEX山口/三浦大知/MONGOL800/RIP SLYME/lecca
料金: ¥7,500(税込) ※小学生以下は保護者同伴のもと入場無料/雨天決行・荒天中止/リストバンドとの交換で入退場自由
日時:6月25日(土)、26日(日)開場10:00
会場:長野県・茅野市民館(茅野市塚原1-1-1-)
共演:OGRE YOU ASSHOLE/ONIGAWARA/group_inou/go!go!vanillas/Shiggy Jr./SHERBETS/やついいちろう ほか
料金:1日券¥6,800/2日通し券¥12,500/茅野市民割¥6,000(1日券のみ・枚数限定)